尹錫悦大統領弾劾審判決定文全文(3) + 言及された法条文
(c) 兵力動員の必要性認定有無
非常戒厳は、兵力として軍事上の必要に応じ、又は公共の安寧秩序を維持する必要がある場合にのみ宣布できる(憲法第77条第1項)。 したがって、兵力の動員が危機状況を収拾するのに適しておらず、又は警力だけで危機状況が収拾できる場合には、非常戒厳を宣布することはできない。被請求人が主張する国会の権限行使による国益阻害及び国政麻痺状態は、政治的·制度的手段を通じて解決すべき問題であり、兵力を動員して解決できるものではない。 憲法も非常戒厳が宣布された時にも「政府や裁判所」の権限に関して特別な措置ができるよう規定し(第77条第3項)、国会だけは継続してその権限を行使することを前提に、国会に戒厳解除要求権を付与している(第77条第5項)。 また、前述したように不正選挙疑惑は司法手続きを通じて解消できるものであるので、これを解消するために兵力を動員する必要があると見ることもできない。
一方、被請求人はこの事件の戒厳が野党の専横と国政危機状況を国民に知らせ、訴えるための「警告性戒厳」、「訴え型戒厳」だったと主張している。 兵力投入はその他の手段をすべて考慮した後、最後の手段として使われるべきだという点で、被請求人は、まず国民向け談話などを通じて、これでも足りなければ弾劾制度などに対する憲法改正案発議(憲法第128条第1項)や国家安危に関する重要政策に対する国民投票付議権行使(憲法第72条)を通じて国民の関心を集め、このような危機状況を知らせ警告と訴えをすることもできた。
したがって、この事件の戒厳宣布の当時、兵力として軍事上の必要に応じ、又は公共の安寧秩序を維持する必要があったとは見られないので、この点においてもこの事件の戒厳宣布は非常戒厳宣布の実体的要件を備えていない。
(d) 戒厳法第2条第2項が定めた目的の認定有無
非常戒厳宣布の目的は、軍事上の必要に応じ、又は公共の安寧秩序を維持するためのものでなければならない(戒厳法第2条第2項)。 すなわち、非常戒厳は重大な危機状況が現実的に発生した時、危機状況から始まった軍事上の必要に応じ、又は危機状況によって毀損された公共の安寧秩序を維持·回復するための目的にのみ宣布されることができる。
被請求人は、この事件の戒厳が野党の専横と国政の危機状況を国民に知らせ、訴える目的で即刻的な解除を前提に暫定的·一時的措置として宣布された「警告性戒厳」又は「訴え型戒厳」だと主張するが、このような主張だけでも被請求人がこの事件の戒厳を重大な危機状況から始まった軍事上の必要に応じ、又は危機状況によって毀損された公共の安寧秩序を維持するために宣布したものではないことが分かる。 また、後述したように、被請求人はこの事件の戒厳を宣布することにとどまらなかった。 被請求人は、憲法の根本原理を違反し、国民の基本権を広範囲に侵害するこの事件の布告令を発令させた。被請求人は、国会の憲法上の権限行使を防ぐ意図で、国会に警力を投入して国会への出入りを統制し、兵力を投入して本会議場から国会議員を引き出すよう指示し、政党の活動を制約する意図で主要政治家に対する「必要時に逮捕する目的の位置確認指示」に関与した。 被請求人は兵力を動員して不正選挙疑惑を解消する目的で中央選管委を押収·捜索することを指示し、必要時に逮捕する目的で行われた法曹人に対する位置確認指示にも関与した。また、被請求人が戒厳解除に少なくとも数日かかると予想したが、予想より早く終わったと明らかにした点、この事件の戒厳が警告性という点を国務会議の構成員や軍人に知らせなかった点などを考慮すれば、被請求人が単純に国民に訴えるための目的でこの事件の戒厳を宣布したと見ることはできない。
「警告性戒厳」又は「訴え型戒厳」というものは存在し得ない。 非常戒厳が宣布されると、直ちに被請求人は平常時に許容される範囲を超えて国民の基本権を制限し、政府や裁判所の権限に関して特別な措置を取る権限を保有することになる(憲法第77条第3項)。 被請求人の別途の指示がなくても戒厳法により戒厳業務を施行するため戒厳司令部が構成され(第5条第2項)、戒厳司令官は戒厳地域のすべての行政事務と司法事務を管掌しながら行政機関及び司法機関を指揮·監督することになる(第7条第1項、第8条第1項)。重大な危機状況を兵力で克服することが非常戒厳の本質であるため、その宣布は単なる警告にとどまることはできない。 したがって、この事件の戒厳が「警告性戒厳」又は「訴え型戒厳」に過ぎないという被請求人の主張は受け入れられない。
(e) 小結
この事件の戒厳宣布は憲法第77条第1項及び戒厳法第2条第2項を違反したものである。
(2) 非常戒厳宣布の手続き的要件の違反有無
(a) 非常戒厳宣布手続きの憲法的意義
憲法は直接、戒厳宣布の手続きを具体的に規定しながら、法律が定めるところにより戒厳を宣布するよう規定している。 前述したように、国家緊急権の行使は権力の集中と平常時の権力統制装置の部分的解除を伴うため、これを乱用又は悪用する場合、憲法的価値と国民の基本権が侵害される危険がある。 これに対し憲法は、国家緊急権の乱用と悪用を防止するために、直接的に、国家緊急権の発動手続きを明確にしたのである(憲法裁1994.6.30. 92憲ガ18; 憲法裁1996.2.29. 93憲マ186参照)。
被請求人は、この事件の戒厳は野党の専横と国政の危機状況を国民に知らせ、訴える目的で、即時的な解除を前提に暫定的·一時的措置として宣布された「警告性戒厳」又は「訴え型戒厳」であり、高度な保安性と緊急性を必要とするため、手続き規定を弾力的に解釈する必要があると主張します。
しかし、前述したように被請求人がこの事件戒厳に伴って行った一連の憲法及び法律違反行為および非常戒厳の宣布はその本質上警告にとどまることができないという点を考慮すれば、この事件戒厳が単純に「警告性戒厳」又は「訴え型戒厳」に過ぎないと見ることはできない。また、立憲主義の法治国家において、国家権力は常に憲法の枠内で憲法に規定された手続きによって行使されなければならない点、戒厳宣布権の乱用または悪用が憲法秩序にもたらす害悪が非常に重大であり、憲法はこれを防止するために直接戒厳宣布の手続きを具体的に規定しながら法律が定めるところによって戒厳を宣布するよう規定したものである点、憲法と法律が定めた手続きを遵守することが保安性と緊急性を害するとは考えにくい点などを考慮すれば、戒厳宣布手続きに関する規定を弾力的と解釈しなければならないという被請求人の主張は受け入れられない。
したがって、被請求人はこの事件の戒厳を宣布するにあたって、憲法と法律が定めた非常戒厳宣布の手続きを全て遵守しなければならなかったはずだが、後述したように被請求人はこれを遵守できなかった。
(b) 国務会議審議手続きの遵守有無
1) 戒厳の宣布及び戒厳司令官の任命は、国務会議の審議を経なければならない(憲法第89条第5号、戒厳法第2条第5項、第5条第1項)。
国務会議は大統領·国務総理と国務委員で構成され(憲法第88条第2項)、大統領は国務会議議長として(憲法第88条第3項)、会議を招集し、これを主宰する(政府組織法第12条第1項)。国務会議は構成員の過半数の出席で開会するが(国務会議規定第6条)、同事件の戒厳宣布の当時の過半数は11人以上だった。 国務会議の「審議」とは大統領·国務総理·国務委員が案件に対する自由な発言と討論を通じて、意見を交換し、又は調整することを言う。国務会議は、大統領が政策を決定する前に、それに関する多様な観点と利益を反映した議論が行われるようにすることで、政策決定に慎重を期し、大統領の専制や独善を防止することにその意義がある。
2) 前述したように、被請求人がこの事件の戒厳を宣布する直前に、国務総理及び9人の国務委員にこの事件の戒厳宣布の趣旨を簡略に説明した事実は認められる。 しかし、すべての国務委員は、国務会議の構成員として国政を審議する権限と責任が認められるにもかかわらず(憲法第87条第2項)、文化体育観光部長官の柳仁村、環境部長官の金琓燮、雇用労働部長官の金文洙、国家報勲部長官の姜貞愛は大統領室に入るようにという連絡を受けられなかった点、連絡を受けた国務委員も国務会議を開催するという連絡ではなく、大統領室に入るようにという連絡を受けた点などを考慮すれば、一部の国務委員に大統領室に入るように連絡しただけで適法な国務会議招集通知があったと認めることは難しい。
2) 前述したように、被請求人がこの事件の戒厳を宣布する直前に、国務総理及び9人の国務委員にこの事件の戒厳宣布の趣旨を簡略に説明した事実は認められる。 しかし、すべての国務委員は、国務会議の構成員として国政を審議する権限と責任が認められるにもかかわらず(憲法第87条第2項)、文化体育観光部長官の柳仁村、環境部長官の金琓燮、雇用労働部長官の金文洙、国家報勲部長官の姜貞愛は大統領室に入るようにという連絡を受けられなかった点、連絡を受けた国務委員も国務会議を開催するという連絡ではなく、大統領室に入るようにという連絡を受けた点などを考慮すれば、一部の国務委員に大統領室に入るように連絡しただけで適法な国務会議招集通知があったと認めることは難しい。
ひいて、中小ベンチャー企業部長官の吳姈姝が最後に到着し、被請求人がこの事件の戒厳を宣布するために大接見室から出るまでにかかった時間は5分程度に過ぎなかった点、開議宣布・議案上程・提案説明・討議・散会宣布・会議録作成など通常の国務会議手続きにより会議が進行されなかった点、被請求人は戒厳の必要性·施行日時·戒厳司令官などこの事件の戒厳の具体的な内容を説明しておらず、国務総理及び国務委員らにこの事件の戒厳宣布に関して意見を述べる機会を付与しなかった点、会議で非常戒厳宣布の実体的要件の具備有無などに関して実質的な検討と議論がなされなかった点など、当時の状況を総合的に考慮すれば、上記の出席者の間でこの事件戒厳宣布に関する「審議」がなされたと見ることも難しい。
被請求人は2024.12.3.20:30頃から順に大統領室に入ってきた国務総理と国務委員たちがこの事件の戒厳に対して議論したので、実質的な審議課程が存在したと主張する。しかし、国防部長官の金龍顕、統一部長官の金暎浩、外交部長官の趙兌烈、法務部長官の朴性載、行政安全部長官の李祥敏以外の他の国務委員に対する大統領室に入るようにという連絡は21時過ぎに行われ、保健福祉部長官の曺圭鴻(チョ・ギュホン)及び吳姈姝は22:17頃に大統領室に到着した点、国務会議の議事定足数が満たされていない状況で国務会議の一部の構成員が意見を交わしたことを国務会議審議とは評価できない点、当時にも被請求人がこの事件の戒厳の具体的な内容を説明し、又は非常戒厳の実体的要件の具備有無などに関して実質的な検討や議論が行われなかって点、先に到着した国務会議構成員の議論経過が国務会議の議事定足数が満たされた後に他の国務委員らに説明されたのでもなく、遅れて到着した国務委員らは意見陳述の機会を与えられなかった点などを考慮すれば、被請求人の上記の主張は受け入れ難い。
また、被請求人は金龍顕が戒厳の種類・戒厳日時・戒厳地域・戒厳司令官が記載されている非常戒厳宣布文10部を大接見室で配布したので、議案の上程及び上記の事項についての審議が行われたとも主張するが、金暎浩、趙兌烈、曺圭鴻、吳姈姝、農林畜産食品部長官の宋美玲(ソン・ミリョン)、企画財政部長官の崔相穆(チェ・サンモク)は検察で、そういう文書を見たことがなく、戒厳司令官が誰なのか知らなかったという趣旨で陳述した点、国務総理の韓悳洙もこの事件の第10回弁論期日で戒厳司令官が誰なのか知らず、それに関する審議はなかったと証言した点、 李祥敏はこの事件の第7回弁論期日で非常戒厳宣布文が国務会議の構成員11人が集まった第接見室ではなく、執務室内の机に置かれているのを見たと証言し、警察で当時に戒厳司令官に関する話はなかったと陳述した点、朴性載は国会で当時、自分の席の前に置かれた非常戒厳宣布文1枚を見たがすべての出席者の前に置かれたわけではなく、その内容について議論が行われたわけでもないという趣旨で陳述した点、国家情報院長の趙太庸(チョ・テヨン)はこの事件の第8回弁論期日で2024.12.3.20:50頃から大統領室にいたが、執務室や大接見室で非常戒厳宣布文を見たことがないと証言した点を考慮すれば、被請求人の上記の主張も受け入れ難い。
それなら被請求人は、国務会議の審議を経ずにこの事件の戒厳を宣布し、戒厳司令官を任命したので, 憲法第89条第5号、戒厳法第2条第5項、第5条第1項を違反した。
(c) 戒厳宣布手続きの遵守有無
1) 戒厳宣布は文書の形式でしなければならず、その文書には国務総理と関係国務委員の副署がならなければならない(憲法第82条、憲法裁1996.2.29. 93憲マ186参照)。これは大統領の権限行使を明確にし、責任所在を確実にするために憲法上要求される機関内部的な権力統制手続きである。
証拠として提出された非常戒厳宣布文と韓悳洙、李祥敏の証言、朴性載の国会での陳述を総合すれば、この事件の戒厳宣布の当時、戒厳の種類・戒厳日時・戒厳地域・戒厳司令官が記載された非常戒厳宣布文が作成された事実は認められる。しかし、そこに国務総理と関係国務委員が副署した事実は認められない。むしろ崔相穆、趙兌烈、吳姈姝の検察での陳述によると、大接見室を出ようとするとき、ある職員が文書に出席者の署名をしなければならないと言ったが、署名を拒否したという事情がうかがえるだけである。この事件の戒厳宣布に関する文書に国務総理と関係国務委員が副署しなかったにもかかわらず、被請求人はこの事件の戒厳を宣布したので、憲法第82条を違反したことである。
被請求人は極度の保安が要求される非常状況では事後的に文書を作成して決裁する方式を取るしかないが、この事件の戒厳宣布以後、国防部が決裁を上申しなかったため副署がなされなかったことなので、被請求人が文書主義や副署制度を無視した行為とは評価できないと主張する。しかし、被請求人はこの事件の戒厳宣布の前、大統領室の大接見室に国務会議の構成員11人が集まっていたとき、服属室長の姜義求(カン・イグ)が非常戒厳宣布文10部をコピーして金龍顕に伝達したと主張しているので、保安上の理由でこの事件の戒厳宣布前に憲法第82条を遵守できなかったという被請求人の主張は首肯しかねる。文書主義及び副署制度が大統領の国法上行為の責任所在を確実にし、大統領の権力を統制する手続きとして機能するためには、大統領の国法上行為の以前に国務総理と関係国務委員の副署がなされなければならない。これに加え、被請求人は戒厳宣布権者として、憲法及び法律が定めた手続きがすべて遵守されることを担保する責任があるという点を考慮すれば、被請求人の上記の主張は受け入れられない。
2) 大統領は戒厳を宣布するとき、その理由・種類・施行日時・施行地域及び戒厳司令官を公告しなければならない(戒厳法第3条)。これは国民の権利・義務に重大な影響を及ぼす戒厳の具体的な事項を国民に知らせるようにすることで、戒厳宣布権の乱用を防止するためのものである。
被請求人はこの事件の戒厳を宣布したとき、その施行日時・施行地域及び戒厳司令部を公告しなかったので、戒厳法大3条も違反した。
(d) 国会通告手続き遵守有無
大統領は、戒厳を宣布したときは、遅滞なく国会に通告しなければならない(憲法第77条第4項、戒厳法第4条第1項)。
被請求人は、国会に対する通告が行われなかったのは事実であるが、この事件の戒厳宣布後、非常に短い時間内に国会が非常戒厳解除要求決議案を可決し、別途に国会に通告する時間的な余裕がなく、第1次国民向け談話が放送を通じて生中継され、国会議員たちがこの事件の戒厳のリアルタイムで認知した状態だったので、被請求人が国会通告義務を違反したと見ることはできないと主張する。しかし、憲法が大統領に国会通告義務を付与した趣旨は、国会が憲法第77条第5項に基づいて付与された戒厳解除要求権を適時に行使できるよう保障するためのものであり、国民向け談話が放送を通じて生中継されるかどうかとは関係なく、大統領は国会に公式的な通告をする義務を負うと見なければならず、この事件の戒厳宣布時核と国会の非常戒厳解除要求決議案の可決時核を考慮すると、被請求人に国会へ通告する時間的な余裕がなかったと見ることもできない。
したがって、被請求人は憲法第77条第4項及び戒厳法第4条第1項を違反した。
(3) 憲法による国軍統帥義務など違反有無
(a) 大統領は、「憲法及び法律の定めるところにより」国軍を統帥する(憲法第74条第1項)。大統領が国軍統帥権を乱用し、又は恣意的に行使する場合、取り返しのつかない被害をもたらすため、憲法第74条第1項は、大統領が憲法と国軍組織法など法律が定める限界内で国軍統帥権を行使するよう規定している。
大統領の国軍統帥権に関して憲法が定めている限界の中で一つは国軍の政治的中立性である(憲法第5条第2項)。我が国は過去、軍事政変を通じて軍が直接政権を樹立し、又は政治権で軍を動員して政治に影響を及ぼした歴史的経験を持っている。軍人と軍務員は公務員であり(国家公務員法第2条第2項第2号)、憲法第7条第2項が公務員の政治的中立性を保障しているにもかかわらず、現行憲法で国軍の政治的中立性に関する規定を導入し、これを再び明示的に強調したことは、我が国の憲政史で二度と軍の政治介入を繰り返さないと言う意志を表現したのである(憲法裁2018.7.26. 2016憲バ139参照)。
したがって、国軍が政治に介入し、又は特定の政党を支援するなど政治的な活動をするのはもとより、政治権が国軍に影響力を行使しようと試みたり、国軍を政治的に利用することは、憲法第5条第2項に違反する。結局、大統領が政治的な目的で国軍統帥権を行使し、国軍を利用することは、憲法第74条第1項が定めた憲法による国軍統帥義務を違反することである。
(b) 戒厳は兵力として危機状況に対処するために宣布するものであり(憲法第77条第1項)、必然的に大統領の国軍統帥権行使を伴う(憲法第74条第1項)。非常戒厳が宣布される場合、現役の将官級将校の中で任命された戒厳司令官が戒厳司令部の長として戒厳業務を施行することになり(戒厳法第5条)、戒厳地域のすべての行政事務と司法事務を管掌しながら行政機関及び司法機関を指揮・監督することになる(戒厳法第7条第1項、第8条第1項)。大統領は全国を戒厳地域とする場合と直接指揮・監督をする必要のある場合には戒厳司令官を指揮・監督するので(戒厳法第6条第1項)、結局、大統領は軍人に対する指揮・監督権の行使を通じて戒厳業務を施行するのである。
前述したように、被請求人は自分の意見に反対する野党が多数議席を占めている国会との対立状況を打開する意図で兵力を動員するために、この事件の戒厳を宣布した。 したがって、被請求人は憲法第5条第2項及び第74条第1項に違反した。
(4) 小結
法治国家原理、憲法第66条第2項及び第69条によって憲法遵守義務を負う大統領は、国民皆に対する「法治と遵法の象徴的存在」である。大統領は憲法を守護し、実現するためにあらゆる努力を傾けなければならないだけでなく、法を遵守して現行法に反する行為をしてはならず、延いては立法者の客観的な意思を実現するためのあらゆる行為を行わなければならない(憲法裁2004.5.14. 2004憲ナ1参照)。
憲法は非常戒厳宣布権の乱用と悪用を防止するために、直接その実体的・手続き的要件を具体的に定めながら、「法律の定めるところにより」非常戒厳を宣布するように規定している。また、憲法裁判所は緊急措置など過去の国家緊急権の行使が憲法に違反すると判断しながら、憲法が国家緊急権を認めた趣旨、国家緊急権を発動できる非常事態の意味、国家緊急権の発動を正当化できる目的など国家緊急権行使の限界を明確にした(憲法裁1994.6.30. 92憲ガ18; 憲法裁2013.3.21. 2010憲バ132等; 憲法裁2015.3.26. 2014憲ガ5参照)。 したがって、憲法遵守義務を負っている大統領としては、憲法と法律が定めた非常戒厳宣布の要件と限界を遵守し、慎重にその権限を行使しなければならない。
にもかかわらず、被請求人は前述したように、憲法の規定又は国家緊急権の本質上、非常戒厳の宣布を正当化できない事情を挙げて、この事件の戒厳を宣布した。 被請求人は憲法第77条第1項及び戒厳法第2条第2項が定めた危機状況が現実的に発生したと見る根拠がなかったにもかかわらず、顕著に非合理的又は恣意的な判断でこの事件の戒厳を宣布したので、憲法第77条第1項と戒厳法第2条第2項を違反した。被請求人が国務会議の審議など憲法と戒厳法が定めた非常戒厳宣布の手続きを遵守していたら、被請求人の判断が間違っていたという点を認識し、この事件の戒厳宣布に進まなかったかもしれないが、被請求人は憲法第77条第4項、第82条、第89条第5号、戒厳法第2条第5項、第3条、第4条第1項、第5条第1項が定めた非常戒厳宣布の手続きもやはり違反した。また、被請求人は国会との対立状況を打開する意図でこの事件の戒厳を宣布し、兵力を動員することで、憲法第5条第2項及び第74条第1項も違反した。
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言及された法律条文
大韓民国憲法
第5条 第2項 国軍は国家の安全保障及び国土防衛の神聖な義務を遂行することを使命とし、その政治的中立性は、これを遵守する。
第7条 第2項 公務員の身分と政治的中立性は、法律の定めるところにより、これを保障する。
第66条 第2項 大統領は国家の独立·領土の保全·国家の継続性及び憲法を守護する責務を負う。
第69条 大統領は、就任に臨み、次の宣誓をする。
第72条 大統領は、必要と認めるときは、外交・国防・統一その他国家安危に関する重要政策を国民投票に付することができる。
第74条 第1項 大統領は、この憲法及び法律の定めるところにより国軍を統帥する。
第77条 第1項 大統領は戦時·事変又はこれに準じる国家非常事態において兵力により軍事上の必要に応じ、又は公共の安寧秩序を維持する必要があるときは、法律の定めるところにより、戒厳を宣布することができる。
第77条 第3項 非常戒厳が宣布されたときは、法律の定めるところにより、令状制度、言論·出版·集会·結社の自由、政府や法院の権限について、特別な措置をすることができる。
第77条 第4項 戒厳を宣布したときは、大統領は、遅滞なく国会に通告しなければならない。
第77条 第5項 国会が在籍議員の過半数の賛成により、戒厳の解除を要求したときは、大統領は、これを解除しなければならない。
第82条 大統領の国法上の行為は、文書をもって行い、この文書には、国務総理及び関係国務委員が副署する。軍事に関するものも、また同様とする。
第87条 第2項 国務委員は、国政について大統領を補佐し、国務会議の構成員として国政を審議する。
第88条 第2項 国務会議は、大統領・国務総理及び十五人以上三十人以下の国務委員で構成する。
第88条 第3項 大統領は、国務会議の議長となり、国務総理は、副議長となる。
第89条 次の事項は、国務会議の審議を経なければならない。
第89条 第5号 大統領の緊急命令・緊急財政経済処分及び命令又は戒厳とその解除
第128条 第1項 憲法改正は、国会在籍議員過半数又は大統領の発議により提案される。
戒厳法
第2条第2項 非常戒厳は大統領が戦時·事変又はこれに準ずる国家非常事態の時、敵と交戦状態にあったり社会秩序が極度に撹乱され、行政及び司法機能の遂行が顕著に困難な場合に軍事上の必要に応じ、又は公共の安寧秩序を維持するために宣布する。
第2条第5項 大統領が戒厳令を宣布又は変更しようとする時には、国務会議の審議を経なければならない。
第3条 大統領が戒厳を宣布するときは、その理由、種類、施行日時、施行地域及び戒厳司令官を公告しなければならない。
第4条第1項 大統領が戒厳令を宣布した時は、遅滞なく国会に通告しなければならない。
第5条第1項 戒厳司令官は、現役の将官級将校のうち国防部長官が推薦した者を国務会議の審議を経て大統領が任命する。
第6条第1項 戒厳司令官は戒厳の施行に関して国防部長官の指揮·監督を受ける。 但し、全国を戒厳地域とする場合と大統領が直接指揮·監督をする必要がある場合には大統領の指揮·監督を受ける。
第7条第1項 非常戒厳の宣布と同時に、戒厳司令官は、戒厳地域のすべての行政事務と司法事務を管掌する。
第8条第1項 戒厳地域の行政機関(情報及び保安業務を管掌する機関を含む。 以下同じ)及び司法機関は遅滞なく戒厳司令官の指揮·監督を受けなければならない。
政府組職法
第12条 第1項 大統領は、国務会議の議長として会議を招集し、これを主宰する。
国務会議規定(大統領令)
第6条 第1項 国務会議は構成員の過半数の出席で開議し、出席構成員の三分の二以上の賛成で議決する。
国家公務員法
第2条 第2項 「経歴職公務員」とは実績と資格により任用され、その身分が保障され、終生の間(勤務期間を定めて任用する公務員にあつては、その期間の間を言う)公務員として勤務することが予定される公務員を言い、その種類は、次の各号のとおりとする。
第2条 第2項 第2号 特定職公務員:法官、検事、外務公務員、警察公務員、消防公務員、教育公務員、軍人、軍務員、憲法裁判所の憲法研究官,国家情報院の職員,警護公務員と特殊分野の業務を担当する公務員として他の法律で特定職公務員に指定する公務員
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